[アドラー式] 人生で大切なものは自動車教習所で習った。②

2020年6月14日

公道デビューの日 サバンナのど真ん中に産み落とされたバンビ

数日後、とうとう僕のドライバーデビューの日がやってきた。

親父の車を借りて、街を試しにドライブしてみたいと考えている。

教習所の入所する時もそうだったが、初めての公道デビューも無茶苦茶、緊張している。

なぜなら、教習所のなかはみんな同じ立場の教習生ばかりだけど、一般の公道に出れば当たり前のことだが、いろんな人が運転をしている。

ヤンキーや暴力団、泥棒や詐欺師、ヒステリー女やパワハラ親父などできれば避けて通りたい輩達にもどこで出会うか分からないのだ。

僕は「免許取立ての正真正銘の運転初心者」だ。

この広いドライバー界では一番下の下の存在であることは自覚している。

加えて言わせてもらうなら、車はオヤジの10年目を迎える軽自動車だ。

車格的にも、まー底辺層の車だ。

免許取立ての超初心者が10年ものの軽自動車にのって天下の公道をデビューするのだ。

まるで自分が、サバンナのど真ん中に産み落とされたバンビのようだと感じていた。

周りは敵ばかりか?

輪をかけるように、周りの奴らにはさんざん脅かされた。

色んな奴に色んな事を言われたが、その内容を要約すると次のようになった。

①トラックやダンプカーには近づくな。当てられたら、軽くて薄い軽自動車はひとたまりもない。

②外車。特に黒塗りのベンツが近づいてきたら離れろ。擦りでもしたら年収が吹き飛ぶ。

③改造車。車高を落としている車やマフラーから爆音を鳴らしている車は暴走族なので、目があっただけでも、喧嘩を仕掛けられる。

④ごみ収集車。ゴミの日は自分たちが一番偉いと勘違いしている。

⑤スポーツカー。隙を見せればすぐにスピード勝負を挑んでくるので要注意。

⑥タクシー。車線を守ると言う基本的なモラルを忘れているドライバーが多い。

⑦高齢者。反応が鈍い。アクセルとブレーキを踏み間違える可能性もある。

こんなことを聞かされて、周りは敵ばかりで自分が一番弱いという事を頭に叩き込んだ。

勇気を出して運転してみたらいい人ばかりだった!

かなり、憂鬱な気分になったが、そんな事ばかり気にしていても、埒がないと思い直して、ハンドルを握った。

まずは、家の車庫から出てそして住宅街を抜けて、大通りに合流しなければならない。ここは信号がないT字路なので、こちらから大通りに割り込む形になる。

車が空いた瞬間を狙い合流をしたいが、車列は渋滞している。いつまで経っても合流できないかもと心配し始めた時だ、走り込んできた改造車が手前で止まってくれた。

割り込んで良いのかなと躊躇していると、なんとヤンキー姿のドライバーは笑顔で手招きしてくれている。おかげて、感謝のお辞儀をしながら僕はスムーズに車列に合流することが出来た。

続いて、今度は右折する場面がやってきた。僕が右折しないと後ろが渋滞してしまう状況なので隙をみて右折を敢行したいと焦りを感じ始めたその時、一台の大型ダンプカーが交差点の手前で停止してくれた。

しかもヘッドライトを点滅させてくれている。

「ゴーサイン」だ。僕はまた感謝のお辞儀をしながら、交差点を無事に曲がることが出来た。

それからも、黒塗りのベンツが車線変更したそうに感じたので、スピードを緩めて前に入れてあげたら、「ありがとう」のサイン=ハザードを2回点滅させてくれたり、なんだか夢のようにスムーズに運転できていた。

周りは怖い存在ばかりだとビビっていたが、実際は全然違っていたのだった。

色んなドライバーの話を聞いてみた。

暫くすると、僕はサービスエリアのフードコートにいた。

同じテーブルには、先程のトラックドライバーや暴走族の兄ちゃん、黒塗りベンツのドライバーなど様々なドライバーが集まっていた。

僕は、素直な気持ちで「今日が初めての公道デビューで周りは怖い車ばかりに思っていた事」や「自分は最底辺のドライバーだと思っていたこと」そして「みんなが意外にもとても親切だったのでスムーズに運転できた事」などを話し、非常に感謝していると伝えた。

すると、みんなは初めて公道デビューした僕を労いながら、いろんなアドバイスをしてくれた。自分なりに要約すると次のような内容になった。

①トラックドライバーの話

 自分は荷物を運ぶ目的があるので、大量の荷物を一度に運べるトラックに乗っているだけで、自分一人で運転するならば、軽自動車で十分だと思っている。なので車体がデカいから偉いとか上とかの意識はない。

②高級外車ドライバーの話

 ベンツと軽自動車を比べると確かにベンツの方が全ての面において、費用が掛かっているので高級感はあります。
でも車に高級感を求めるか否かはその人の価値観によるところが大きいと思います。


自分のように車にお金をかける人も居るように、住居にかける人、ファッションにかける人、グルメにかける人、事業にかける人、など人の価値観は人それぞれです。


そもそもお金に対する価値観も人それぞれなので、たかだか高級外車に乗っているから偉いとか上とかの意識はないですよ。
そんな意識を持ってることこそ恥ずかしいと思います。

③スポーツカーのドライバー

僕の車は、あなたの軽自動車に較べたら確かにスピードは出ます。時速300kmは出ると思いますよ。
ヨーイドンで競争したら僕の圧勝でしょう。


でも、僕とあなたは競争してるわけではありません
そもそも、どちらが早く目的地に到着するかで競いあったとしたら、どちらが勝つかはわかりませんよ。あなたが勝つ事も十分にありえます。


何故なら、お互いに目的地が異なるからです。あなたは、近くのコンビニ、僕は100キロ離れた友達の家に行くという競争を始めたら当然あなたの圧勝です。
つまりは、目的がバラバラであれば競争は成り立たないということです。

なので、あなたが軽自動車に乗っていると言う理由で僕に対して劣等感を持つ必要はありません。

人も車も同じでは無いが対等の関係なのだ。

僕は車に乗る前は、周りは怖い車ばかりだと脅かされてきたし、自分の軽自動車は底辺層の存在だと卑下していた。

周りは敵ばかりで、自分が一番弱い存在だという劣等感でいっぱいだった

しかし、実際はそんな事なかったのだ。

今日出会った一見怖そうに見える、トラックや外車のドライバーさん達はみんないい人ばかりだ。

皆さん、口を揃えて言うのは「人はみんな同じでは無い。車に乗る目的も違うし、車に対する価値観も異なる」なので「比べることが間違いなのだ」と「人(車)は同じでは無いが対等の関係なのだ」と教えてくれた。

今まで抱えてきた怯えや劣等感がどこかへ消え去り、「周りは仲間で対等の関係性」であることが実感として湧いてきたのだった。

続く